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ho - jun

芳醇/豊潤 ・ 小説と漫画創作 ・ 本と映画レビュー ・ 初心者社会学

【映画】駆け込み女と駆け出し男 …ハマってしまってヤバイ。

映画音楽レビュー

 

駆込み女と駆出し男

駆込み女と駆出し男

 

 

水曜どうでしょう」のファンとしては、大泉洋さんが映画やドラマに出るたびに「よかった、よかった」と親戚のおばさんのような気持ちで腕組みしながら深く何度も頷いてしまう。

親戚のおばさんどころか私は大泉さんよりもひと回り以上も歳下なので、こんなヒヨッコに親戚のおばさんヅラされるいわれは大泉さんの方にはこれっぽっちもないのだが、そういう気持ちになってしまうものは仕方がない。

 

大泉さんが出演する作品はなるべく視聴するようにしているのだが、時に、言葉少なに優しく微笑むお父さん役なんかが当たっていることがあってこれはどうでしょうのあのテンションが好きな私としては大いにいただけない。「しあわせのパン」はその最たる例で、というかこの作品以外に上記に当てはまる例は思い浮かばないのだが、スカした洋さんを眺める2時間のなんとまあむず痒い落ち着かないこと。

しあわせのパン [DVD]

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しかし、昨年公開されたこちらの作品は決して裏切ることはない。

駆け込み女と駆け出し男

駆込み女と駆出し男 予告篇 - YouTube

江戸時代、夫となんとか別れるために鎌倉にある東慶寺に駆け込む、女たちのヒューマンドラマ。

劇場で観たかったのに流してしまって、現在huluにあがっているので意気揚々と再生。結果、huluにして大正解、なぜなら1回だけではだいたいの筋しか分からなくて、セリフやストーリーの細かい芸に気付く余裕がない。

というのもこの作品、時代劇に疎い私が見ても、つとめて当時を忠実に再現していることが分かる。逆に言えば、時代劇に疎い私が現代の感覚で見ると、分かり難い。江戸時代の言葉、町人文化、老中・水野忠邦の政治、お歯黒と剃り眉でキメてる満島ひかりが可愛いのかどうか今の感覚だと微妙、などなど。

1回目観たときにはその辺りがぼんやりついていけなくて、しかし、壮麗な映像と胸を震わせる音楽、役者たちの芯からの演技で「なんか良いものを観た」という手触りは確実に残った。

 

まず惑わされてはいけないのが、「東慶寺に駆け込む女たち…」と言いはするものの舞台は東慶寺ではなく、そのお寺の前で、お寺の仲介役をしている「御用宿」

江戸時代、夫が妻と別れることはできても、妻は夫が承諾してくれなければ勝手には別れられない。もちろん家を逃げ出して誰にも見つからずに生きていく道もあるけれども、現代と同じで、逃げ出すわけにはいかない・逃げたとてすぐに連れ戻されてしまう事情のある人だっている。

そこで、どうしても夫と別れたい・でも別れてもらえない女性は、夕方頃に「買い物に行ってきます」とでも言って江戸の家を出て、一晩かけて鎌倉まで歩き、明け方、東慶寺に「駆け込む」。お金があれば今のタクシー感覚で駕籠に乗ることもできるけれども、夜中の山道を、大の男2人(か4人)が若い女を乗せて運ぶ…男たちに魔が差して襲われたり、ぼったくられたりするかもしれない。夜中に「おや、妻が帰って来ないぞ…さては東慶寺だな」と気付いた夫に追いつかれて連れ戻されるかもしれない。

仮にそのように追いかけられても、東慶寺の門に自分の所有物を何か投げ込めば「駆け込み成就」、追いついた旦那にも連れ戻すことはできなくなる。

 

しかし東慶寺に来たらポンと離縁できるわけではなく、まずは「御用宿」のご主人たちによる事情聴取がある。夫の方も呼び出して事情を聞いて、この宿の主人たちに説得されて和解すれば夫婦は家に帰るし、夫・妻とも一歩も譲らないとったら妻は東慶寺という尼寺に入山。髪を短く切って、毎日精進料理を食べて、御経を唱えたり学問や武芸を積んで、男とも接しない生活を2年間耐え抜けば、夫は強制的に離縁状を書かされて、女性は晴れて独身の身として世間に帰ることができる。

その、事情聴取をする「御用宿」が、洋さんの職場…というか居候先

 

洋さん演じる「信次郎」は、江戸で作家見習い&医者見習いをしていたけど、老中・水野忠邦があまりにも質素倹約を強いて町人たちの娯楽をどんどん取り上げてしまうのが不満で、街中でお役人に文句を言って(そのシーンから映画は始まる)、江戸に居づらくなったので親戚がやっている御用宿で厄介になることに。

その御用宿に、奇しくも洋さんが来たのと同じ日に駆け込んできたのが、戸田恵梨香演じる「じょご」と満島ひかり演じる「お吟」。

戸田恵梨香は、鉄練りの才能に恵まれて鉄工房をしていたけど、有能すぎるあまり工房で立場のない旦那はちっとも働いてくれず別の女のところに入り浸り。働いてくれと頼んでも暴力を振るわれる始末、とうとう決心して東慶寺へ。

一方、満島ひかりは質屋のイケメン旦那の妾。暮らしぶりも良くてイケメンで働き者の旦那にも恵まれたのに、事情があって東慶寺へ。2人は駆け込みに向かう道中で出会い、友情を育んでいく。

 

…と、ここまで理解できたのも映画→小説→映画の順に見たからこそ。

小説を読むと2回目の映画の理解がぐっと深まる。

 

小説の方は、井上ひさしの「東慶寺 花だより」。 映画では「原作」ではなく「原案」と記載がある通り、筋書きはそのままではない。

東慶寺花だより (文春文庫)

東慶寺花だより (文春文庫)

 

御用宿に来た15人分の短編エピソードのオムニバスになっていて、そのうちの5人くらいのエピソードをベースにしつつ再編集したのがこの映画。

 

これを読むと、いかにこの映画が小説を見事に再編集しているかということがよくわかる。

小説の方は1本1本、「この人はなんで駆け込んだんだろう…?」と事情を推理しながら読み進めて、その紐が解けたときに胸打つヒューマンドラマが正体を現す、という短編ミステリーのような読み応え。なので信次郎も知性漂う好青年のムードがある。これはちょっと洋さんではない。

 

しかし映画の方は、信次郎が医者を志しつつも滑稽本でも一発当てたがっているインテリコミカル男子という設定を上手く駆使しつつ、それぞれの駆け込んだ女たちの事情を上手く絡ませ合いながら、爽やかな読後感を与えている。(逆に、先にこの映画を見たからこそ、スパスパっと落ちをつけていく小説の方も「きっと映画のように爽やかに、女性たちが幸せに向かっていくはずだ」と信じてスッキリした気分で本を閉じることができる。)

 

医者の本分である「看る」こと「治す」ことは、どうにか人生を良い方向へと軌道修正しようとする女たちを救う、東慶寺の試みそのもの。そしてその女たちの人生のドラマは、作家としての目で「見る」信次郎によって、鮮やかに語られうるのだ。

 

そして滑稽本作家志願者を主役に置くからこそこだわり抜いた、「言葉」遣いの巧みさもこの映画の魅力。

信次郎が誰かと話すシーンは大抵、うまいこと言う者同士の言葉の応酬で、最初はコロコロ話されて何て言っているのか分からなかったけど、2度目3度目でそのうまいこと言いに「くう〜っ」となってくる。口八丁や軽口がお得意の洋さんのキャラが、なんと新二郎にぴったりなこと。

おぼこい戸田恵梨香は地方訛りで、垢抜けた満島ひかりは気取った言葉使い、というのも、「言葉」がまるで衣装の一つのようにキャラクター説明になってるし、ついでに口下手で信次郎に説得される側だった戸田恵梨香が、一皮剥けて最後には信次郎を言いくるめてしまう、人としての成長を本人の話す「言葉」に表しているのもまた巧い。

 

一方で「言葉」を大切にしている映画だからこそ、現代語訳されていないし、なるべく物事を言葉で説明するので、回想シーンなどビジュアルでの説明が極めて少ない。「言葉」についていけないと理解が追いつかなくなる。(ここ泣くところですよー、とか、今盛り上がってますよー、みたいな分かりやす〜い演出や間の取り方は、この映画には一切ない。)そしてその逆を言えば、「言葉」の芯をしっかり通しているからこそ、その隙間にさっと手を伸ばす音楽とビジュアルがより一層沁みてくる。このテーマ曲の、ジーンと深く荘厳で、かつダイナミックな事。

 

そういう舞台装置は差し置いても、強く生きる女たちそれぞれのドラマに胸打たれることは必至。

私は満島ひかりよりも戸田恵梨香派だったが、それぞれの生き様や、自分の中に通す芯はただただかっこいい。更にその2人の女の友情や、尼寺生活の女子校みたいな(私は女子校に通ったことはないけど)はしゃぐ姿、いじめ、友達の恋バナにこっちまでロマンス気分に浸る様子など、いつの世も女たちはやっぱこうだよねー!という共感も多々あって、江戸時代の一部の限られた事情のある女性たちの話とは思えなくなってくる。

 

そして。全く注目していなかった、陽月華演じる「院代さま」が、かっこいいのなんの!!

 

もう、カリスマ満載。

時代物で言えば「さくらん」で見た菅野美穂も私はカリスマ満載で惚れ込んだ(本当に、映像だけであんなにもオーラを発していたキャラはいないくらい)。それ以降、菅野美穂には注目しているのだけど、まだあの「さくらん」レベルの演技に出会ったことがない。

 

話を陽月華に戻すと、役どころは東慶寺の尼たちを取り仕切る、お寺のトップ「院代さま」。慈愛に溢れているが、肝が座っていて楯つく者には豹変したように喝を入れる。元宝塚スターのよく響く声が、その喝にとんでもない迫力を加えている。そして、魅力ある女にはつきものの「秘密」というものもしっかり抱えているんだから、そら素敵でないわけがない。

お気に入りの院代さまシーンは、部下を叱るときの「2歩すり歩き」と、ヒヨる信次郎への「日傘ツン」。前者は最高にかっこいいし後者はスーパー可愛い。

 

また、この院代さまといい、女たちが言葉のみならず身体でも根性でも知恵でも、男たちを越えて強く生きていく様がたまらない。

クライマックスの戦闘シーン、気が狂って人質をとって暴れる男をどうにか抑えようとする気迫あふれる時間、なんか最近もみたなーと思ったけど多分これは福山雅治の「SCOOP!」だ。

 

 

さてここまで長々書いているけれども、見れば見るほど発見がある映画なので、見れば見るほど語りたいことが増えてしまってまとまらない。

 

そして根気のない私がここまで1作品を深堀できるのも、他でもない大泉さんへの愛情があればこそ。

もちろん戸田恵梨香満島ひかりも良いので、役者がいいかも、って入りでも、綺麗な景色や音楽が好き、って入りでもいいから、まずは映画全体に流れる「気持ちよさ」に身を任せて観てください。そしてもっと細かい細工まで楽しみたいと思えた方には、ぜひ小説を。

なんていうか、過去のどうでしょうで口八丁言ってる大泉さんがより一層愛おしく感じますよ。