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ho - jun

芳醇/豊潤 ・ 小説と漫画創作 ・ 本と映画レビュー ・ 初心者社会学

山の弔い

「ご覧、今晩は、月がずいぶん赤いだろう。
おまけに、水で滲んだみたいに、ぼんやり陰っている。
こんな夜はね、山の中で、弔いがあるのさ。誰のって、精霊のだよ。
隙間なく木で覆われている様に見える、あの山にはぽっかり広場があって、そこで死んだ精霊のまわりを、山の者たちがぐるぐる回る。
それをあんまり明るく照らすのは失礼だもんだから、月もああして遠慮しているのさ。見ておいで、あとほんの数分もすれば、姿を隠してしまうだろうよ。
その山はね、ずっと近くに見えるようでいて、こちらの人の話し声だとか、電車やバイクのエンヂンの音だとか、そんなのはすっかり聞こえないんだ。山の者たちは、そんなのが苦手だから。
それにあっちはあっちで、風だとか動物の声だとかで、案外騒がしいんだ。
ほうら、月がいなくなった。雲もなんにもないのにだろう。
さあさ、早く眠るんだよ。こんな夜に、起きているといけないから」
ぼくは線路の向こう側に見える、大きな木々の群れを見た。ああ、大きなおばけだ。