旅するトナカイ

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春の蛙

からからからから からからから。
蛙がわたしを見て笑う。


おまえは春の魔法にかかったね。
そんで抜け出せないんだね。


あいつはとっくに目が覚めた。
おまえをおいて現のなかへ。


からからからから からからから。


ゆうべ見た夢、ばらいろの
明け方よりも明るい空と、
びろうどよりもやわらかな。


目覚めてすぐは魔法の居残り
わたしのこころ、バニラのクリイム。
お天道様がしゃべり出す頃に
スプンがわたしに牙をむく。


からからからから からからから。


どうして歪なこの身体は、
豆粒よりもちっちゃくて。
ピンポン玉のわたしの胸は
噴火を秘めた火山のよう。


からからからから からからから。


春の魔法にかかったね。
そんで逃げられないんだね。


あいつはとっくに夏を見て
誰かの手をとり海の中。


からからからから からからから。
からからからから からからから。


いっそわたしのお命も、
ひと夏かぎりであったらなあ。