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芳醇/豊潤 ・ 小説と漫画創作 ・ 本と映画レビュー ・ 初心者社会学

「みぎ」と「ひだり」のはなし

「みぎ」さんは、右側しかありません。
右足で歩き、右手で食べ、右目で見て右耳で聞きます。
「みぎ」さんは、右だけで一人でした。
あるとき「みぎ」さんは、左側だけの「ひだり」さんに出会いました。
『わたしの左側になってください』 「みぎ」さんは言いました。
『わたしの右側になってください』 「ひだり」さんは言いました。
こうして二人は、二人で一人になりました。
「みぎ」さんの右足と、「ひだり」さんの左足で歩くようになりました。
「みぎ」さんの右手で、「ひだり」さんの左手のかゆいところをかきました。
両足があること、両手があることは、なんて便利なのでしょう。
『わたしはやっと一人になれた』 「みぎ」さんと「ひだり」さんは、思いました。


ある日、左側から走ってきた車にはねられ、「ひだり」さんは死にました。
「みぎ」さんは、また右側だけになりました。
元の、一人になりました。
「ひだり」さんを失って、「みぎ」さんの心は痛みました。
けれど、体は痛みません。もともと、右側だけでしたから。
歩けなくも、食べられなくも、見えなくも聞こえなくもありません。もともと、右側だけでしたから。
『わたしはさいしょから、一人だったのだ』 「みぎ」さんは思いました。
『半分だけれど、一人だ』