旅するトナカイ

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チョコレート

あの人は、会うと必ずチョコレートをくれた。
ひとつひとつ包装された、まんまるいチョコレートだった。
彼は別れるときに必ずそれをどこからか取り出してわたしの手に握らせる。わたしは彼との時間の終わりを惜しむ代わりに、それを口へそっと入れて、甘く豊かな香りに胸を膨らませた。彼との会話が、ささやかな幸せが、まだ続いているのだと自身に錯覚させた。時には目を閉じて、彼の残像を瞼の裏側に見ることもあった。

もうあの人とは長らく会っていない。最後のとき、彼はチョコレートを3つわたしにくれた。それらをいつどのように食べたのか、わたしはもう覚えていない。

一度だけ、輸入食品店で、そのチョコレートを見たことがあった。それはふつうのスーパーには売っていなかった。
なんとなしに値札を見てわたしは目を丸くした。
今思えば、その値段には、中毒物質と幻覚物質の分が含まれていたのではないだろうか。