旅するトナカイ

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うわさばなし

バスから降りると、粘着性のある風が木々の枝を揺らし、擦れあう葉がざわざわと話しだすのでした。
「雨が降るよ」「もうすぐ雨が降るよ」
「雨雲が、こちらに押し寄せているって。北の山の森が言っていたもの」
「風に運ばれて、聞こえてきたもの」
それを聞いて、木の根元に植わった花々も、互いに顔を寄せ合いひそひそと話すのでした。
山のほうを見やると、その向こうに大きな真っ黒いくじらみたいな雨雲が、いかにも重たい雨粒をめいいっぱい内包し、その降らす雨は地上のものをひとつも残さず南の海まで洗い流してしまうのではないかと思われるおそらの将軍が、ゆっくり、のっしのっしとこちらへ向かってくるのが見えました。
わたしは上着の首元を閉めて、家によい傘はあっただろうかなと考えながら、風がうたうのを聞いているのでした。